わしが教えたる!父と娘の中学受験

塾に行くと遊んでくるだけになるに違いない小学5年生(2019年受験)の長女とけ(愛称)に,何を思い立ったか受験指導を始めて没入している父と娘の記録

小説・・続き・・(ミチルがやってきた第2話)

 とけにせがまれ,第2話を書く羽目に。それは仕方がないです。第1話が完結していないんだから。

 よっしゃ,書いたる,書いたる。

 父ちゃんな,平日にこんなん書いてる場合やないねんで。20名ほどの就業者とその家族の経済生活に責任を待たなあかん立場やねんで。そこんとこ,忘れんといてな・・

 

第2話 やってはいけないこと

 

 次の日。ヨシコは学校を休んだ。ヨシコ以外の二人(アケミとヒナノ)は、ミチルに殴られたことを、親には内緒にしているらしい。そりゃそうだよね。自分たちがしていたことを考えればね。

 ミチルは何事もなかったように授業を受けている。クラスのみんなは、何か落ち着かないけど、ミナミちゃんへのいじめがなくなりそうで、ほっとしたような雰囲気にもなっていた。ミナミちゃんはミチルの席まで来て、何かいいたそうにしていたけど、何もいわずに戻っていった。時々、まぶしそうな視線をこちらに向けてきて、ミチルのとなりにいる僕は、自分に向けられているわけじゃないと分かっていても、どきっとした。だって僕は、ミナミちゃんのことが、・・・だからね。

 

 6時間目がそろそろ終わりになるころ、突然、教室のとびらが乱暴に開けられた。入ってきたのは、ヨシコのお母さん。と、手を引っ張られた、ヨシコ。

「だれよ、だれなのよ。うちのヨシコに暴力を振るったのは、だれなのよ!」

 ヨシコのお母さんは、ものすごく大きな声を出して叫んだ。

 みんなも、大村先生もびっくりしてしまって、ただ目を丸くしているだけだった。となりやとなりのとなりの教室からも生徒たちがのぞきにやってきた。

「ウチ」

 ミチルが、やれやれという感じで立ち上がった。ヨシコはちょっとびっくりした顔をして、それからすぐに、顔を真っ赤にして、うつむいた。

「何なの、あなた?」

 ヨシコのお母さんは転校してきたばかりのミチルのことを知らない。

「ヨシコは大きな子に押されて転んだといってるんです。誰なのよ!ヨシコを押したのは一体だれ?」

 どうやら、ヨシコはミチルに殴られたとはいっていないようだ。どうしてなのかな。

「だから、ウチ。ウチがそこの子ぉのあごに2発決めたってん。アッパーカット」

 ミチルは何事もないようにいってのけた。シュッとアッパーカットをするそぶりまで付け加える。

「あなたなの?ヨシコ?そうなの?この子が何?殴られたの?信じられない。どうなってるわけ?ヨシコ、何でそんな大切なことママにいわないの?」

 ヨシコは黙っている。

「あなた、何なの?人の子を殴るなんてどうかしてるわよ。一体どういうしつけを受けてるのよ!ヨシコはずいぶん痛がってたのよ!謝りなさい!すぐにヨシコに謝りなさい!」

 ヨシコのお母さんはどなり散らしている。

「あんな、おばちゃん、ウチ、オトンにちゃんと教わってるよ。やったらあかんこと、ちゃんと知ってる」

「人を殴っちゃだめでしょう!血が出てたのよ!痛がってたのよ!」

 ミチルは、ヨシコのお母さんの顔をまっすぐ見て、いった。

「おばちゃん、それは違うで。人が人にしたらあかんこと。それはな、人を悲しませること。それだけ。人は人を悲しませたらあかん。それだけやねんよ」

 ミチルは静かにいった。ミナミちゃんが目を大きく見開いている。ヨシコは、体をびくんと震わせた。ヒナノはうつむいている。アケミも。

「ジブン、悲しかったんか?」

 ミチルは振り返って、ヨシコに向かって語りかけるように聞いた。ヨシコは答えない。クラス全体が、しん、となった。

「痛かったに決まってるじゃないの!殴られたんだから、痛かったに決まってるじゃないの!」

 せいじゃくを破ったのは、ヨシコのお母さんだった。

「ヨシコ、あんた、はっきりこの子にいってやりなさいよ!」

 ヨシコのお母さんは、何もいわないヨシコにも腹を立てているようで、ますます大きな声を張り上げた。

「おばちゃん、あほなん?ウチがいうてるのは、人を悲しませたらあかんということ。ウチが聞いてるのは、その子ぉが、悲しかったんか、ということ」

 ミチルはそういうと、ヨシコに向き直った。

「なぁ、ジブン、悲しかったんか?」

 ヨシコはしばらくじっとしていたが、やがて小さく首を振った。そして、また首を振った。少しずつ大きく。何度も何度も、首を振った。そしていった。しぼり出すような声だった。

「あたし、悲しくなかった。悲しくなんかなかった」

 ヨシコは泣いていた。

「何なのよ!一体何なのよ!」

 ヨシコのお母さんはミチルとヨシコをにらみ付けて、どかどかと教室を出て行った。

「あたし、ごめんね、ごめんね、ミナミちゃん、ごめんね。あたし、悲しくなんかなかった。昨日はびっくりして、自分自身分からなかったけど、今は分かる。あたし、うれしかったんだ。ほっとしてたんだ。ミナミとは去年まで友だちだった。親友だった。でも、あんなことになって。ミナミがアケミと同じ服を着てたからアケミがきげんを悪くしちゃって。それで、あの子許さないっていう話になって、どんどんどんどんおかしなことになっていって。ミナミをいじめるのが当たり前になって。あたし、ミナミのこと助けられなかった。ううん。ミナミにひどいことした!あたしが。あたしがひどいことをしたっ!」

 ヨシコはずっと泣きながら、止めどもなく話す。

「だからうれしかったんだ。これで終わると思ってうれしかったんだ。悲しくなんか、全然なかった。全然なかった!」

 声をしぼり切るようにヨシコはいった。

 ミチルは、ヨシコに近寄ると、頭をなでた。我が子をなでる母親のように、やさしく。ヨシコはしばらく泣いていた。泣き止むのに、5分くらいもかかった。それまでずっと、ミチルはヨシコの頭をなでていた。ヨシコが泣き止むと、ミチルはヨシコにいった。

「でもな、ジブン、ウチのアッパーカット、痛かったやろ?痛くなかったわけやないんやろ?」

 ミチルはどうやら、自分のアッパーカットのいりょくが弱くなったんじゃないかと心配になってきたらしい。ヨシコは、顔をまっすぐ上げて、にっこりと笑っていった。

「ううん。痛かったよ。とっても痛かった。真野さん・・・ミチル、ありがとう。痛かったよ。ありがとう」

 ミチルは、左のまゆ毛を、少し上げた。

 それは、ヨシコへの返事に見えた。

 (第2話 おわり)