わしが教えたる!父と娘の中学受験

塾に行くと遊んでくるだけになるに違いない小学5年生の長女とけ(愛称)に,何を思い立ったか受験指導を始めて没入している父と娘の記録(たまに別の話題も,そりゃぁ・・)

ミチルがやってきた 第3話「オトンのお弁当」

 続きを書きましたけど,とけのお勉強の役に立つんでしょうか。。

 

 2学期の終わりに、写生大会があった。大会、というほどのものでもないんだけど、学校から2キロほど離れた公園に行って好きなものを写生し、途中でお弁当を食べるということもあって、ちょっとした遠足気分になれるものだ。でも、すごく寒いけどね。僕らの学校はホントにスパルタなんだ。
 僕はなんとなくミチルと5メートルほど離れた場所でいかにも冷たそうに澄んだ池と葉の落ちた木を描いていた。これぞ冬、って感じのね。別にミチルにひっついていたいわけじゃないからね!僕が池の縁にこしを下ろしたら、偶然ミチルが近くにいただけのこと。本当だって。
 ミチルは、何を描いてるのかな。僕のところからは見えないけれど、時々、「ありゃっ!?」とか「何で?!」とか、すっとんきょうな声を上げている。何してんだろ。
 
 お昼の休憩の時間になった。僕は、一緒にお弁当を食べようとやってきたイッシ、石川君と並んでお弁当のふたを開けた。ミチルはまだうんうんうなったり、のけぞったりしながら(全く、本当に忙しそう!)絵と格闘している。
 桜の木の下からとがった声が聞こえてきた。ヤヨイとキリノだ。いつも何だかんだと文句ばっかりいっている、セットで、「ヤヨキリ」と呼ばれている二人。
「うちのママのお弁当って、なんかヤなんだよね、昔くさい?みたいな」
「うちもそう。なんだこの弁当は。米とたまご焼き。あり得ねえ組み合わせじゃんかよ。昭和からタイムスリップしてきたんかっつうの。パンくわせろっつうの。たまごサンドにせいっつうの」
「だれがソーセージ、たこにしろっつったっちゅうの。そのまま焼けば良いんだっちゅうの」
 そういうと、「ヤヨキリ」はそろって「きゃはは」と嬌声を上げながらお弁当箱をひっくり返した。
 たこの形に整えられたウインナーが、きょとんとした表情でぽんぽんとはねた。たまご焼きは地面で四角形やら三角形の出来損ないのような形になってふるふると揺れていた。
 僕にはとても見ていられなかった。いや、ご飯に卵焼き。たこソーセージ。全然普通じゃん。何にでも文句を付けたいお年頃っていうやつ?家じゃ絶対あんなことしないはずなのに。友だちだとしても、二人集まってしまったからよけいに悪いことが簡単にできてしまうこともあるんだ。そう思うと、人って怖い。そんなことを考えていた。
 その瞬間。
「あー、ジブンら、あほなん?」
 うわーやっぱり。こういうの見ちゃって何も言わないで済ませられるミチルじゃないよな・・・
「あんな、ジブンらのオカンが、ジブンらのために作ってくれはったわけ。もうそれだけで、おいしいって食べんの。それ以外に、ジブンらがいう言葉は、他に何もあらへんのやよ」
 怒っているわけじゃない。母親が子供に諭して聞かせるような、そんな調子。
 ミチルはそういうと、自分の弁当箱を開けた。大きなお弁当箱には、ご飯の横に、とりの唐揚げがたくさん入っていた。とりの唐揚げばっかり。これでもかっていうくらい、たくさん。
「ウチのん少しあげるから、食べてみぃ」
 ミチルは有無をいわさないで、「ヤヨキリ」に向かって自分の弁当箱をぐいっと差し出した。
 「ヤヨキリ」はちょっと戸惑っていたけど、お互いに目を見合わせて、唐揚げをゆっくりつまむと、そろりと口に入れた。
「どや、おいしいやろ?ウチのオトン、唐揚げだけは上手やねん。せやけど、なんぼ何でも、こんなに一人で食べられへんちゅうねん、な?そうや、ウチも唐揚げ、たこの形にしてもらおかな。いや、やっぱし、順当に行けばにわとりの形やんな、にわとりやねんしな」
 と、「ヤヨキリ」に問いかけるでもなく、一人で何だか悦に入ってしまって今にもスキップでもしそうな足取りで僕の方に近づいてくる。
 思わず、目が合った。
「なんや、サトル。ジブンも欲しいんか?ゆうてくれたらなんぼでもあげるで。オトンの唐揚げはうまいしなぁー。そらサトルも欲しいわなぁー」
 ミチルは、お父さんの唐揚げをクラスメイトに食べさせることができたことが本当にうれしいみたい。僕は、渡された唐揚げを食べたけど、味は分からなかった。
 なぜかって?だって、今、ミチルは、僕のこと、「サトル」って呼んだんだぜ!まだクラスの誰も名前で呼ばれたやつなんかいないはずだ。僕は、もうれつに興奮していた。
 昨日国語の時間に習った俳句のせいかな、頭の中にへんな俳句みたいなのがいろいろとできては消える。
「ミチルが唐揚げをくれたから、12月2日は唐揚げ記念日」
「ミチルが僕をサトルと呼んだから、12月2日はサトル記念日」
 僕にはきちんとした誕生日も、名前を付けてくれた両親もいるのに、ミチルにサトルと呼ばれたくらいで今日を勝手にサトル記念日なんかにしたら、お母さんもお父さん、ひょっとしたらサンタさんも?気を悪くするかな。
 でもそれくらい、僕はうれしかったんだ。ううん。うれしいよりも、だれかれ構わず自慢したいような、そう、誇らしい気分になったんだ。
 その時、ミチルの描いていた絵が見えた。水色と白の2色だけが、淡く混じり合っている。それは、空の色に見えた。濃淡のある、優しい空の色。
「ねぇ、真野さん、何描いたの?」
 僕が聞くと、ミチルは、よく聞いてくれたという顔つきになって、きっぱりと答えた。
「雲。空と、雲」
「せやけど、雲、動きよんねんなぁ。書いたと思ったら動いてんねん。よっしゃ、そんなら今度こそ動くなよって書き足して。そしたら、こんなんなってしもてん」
 ミチルは、チョッとべそをかきそうな声で言った。
(雲が動くなんて、当たり前じゃん!)
 僕は、ミチルに向かって、
「ジブン、あほなん?雲は動くねんで」

とかいってみたいしょう動にかられたけど、はは、いえるわけないよね・・・
 僕は、ミチルの意外な面を見た気がして、うれしくて、おかしくて、ちょっと涙が出た。
 そんな涙でにじんだ目で見上げた空は、ミチルの描いた空の絵と、そっくりだった。

                             (第3話 おわり)